EV(細胞外小胞;Extracellular Vesicles)は、すべての細胞が放出する天然のナノ粒子で、細胞のメッセージを別の細胞に伝えます。
アテリオ・バイオでは、2020年よりライラック乳酸菌由来のEV(Lilac01-EV)の研究用試薬をコスモ・バイオ株式会社より販売して、乳酸菌EVの研究を推進してきました。
ここでは乳酸菌EVに関する疑問にお答えします。
乳酸菌EVの特徴は何ですか?
全ての細胞がEVを出しますが、EVの量や性質はそれぞれ違います。ライラック乳酸菌が出すEVは、カルジオリピンという脳や心臓に多く含まれるリン脂質が主成分で、粒子数が多いのが特徴です。

乳酸菌EVはどんな形をしていますか?
EVは球形をしています。放出する細胞膜をそのまま使いますので、細胞と同じ脂質二重膜という膜で囲まれています。大きさは1万分の1㎜ほど(粒径100nm前後)で、内部には遺伝子の一部(メッセンジャーRNA、マイクロRNAなど)やタンパク質などを含んでいます。

乳酸菌EVはどんな働きをしますか?
乳酸菌EVには炎症を抑える(抗炎症)効果があります。また創傷治癒効果があり、肌の再生や若返り効果があります。EVは体中のあらゆる組織に入り込むことができます。血液脳関門を越えて脳内にも侵入できますので、脳内の炎症を抑えることが可能です。
Lilac01-EV(ライラック乳酸菌由来EV)は、動物ではミトコンドリアだけに存在するカルジオリピンが主成分です。カルジオリピンはミトコンドリアの機能を維持するために極めて重要な成分で、Lilac01-EVはミトコンドリア量を増加させることを確認しています。
またLilac01-EVは脳内のミクログリアという自然免疫細胞の自爆死を抑制することが細胞試験で確認されています。

ミクログリアの自爆死とは何ですか?
ミクログリアは、脳以外ではマクロファージと呼ばれ、病原体が侵入した時に最初に反応する自然免疫の細胞です。通常は死んだ細胞などを食べて処理する係ですが、LPS(後述)などの病原体の特徴を感じるセンサーを持っていて、敵の襲来を感じると炎症反応を開始します。マクロファージ(ミクログリア)の自爆死は炎症反応の一環で、炎症物質をまき散らすことで敵を攻撃します。これが自然免疫の働きで、炎症特に慢性炎症の始まりと考えられます。自然免疫細胞は適応免疫細胞に抗原提示を行って、さらに炎症が進行していきます。
炎症は自分自身を攻撃することにもなり、アレルギーや自己免疫の原因になります。

このビデオはラットのミクログリアに大腸菌由来のEVを添加して、10分を1秒に短縮したものです。
黒っぽい細胞が白くなり、細胞の中身を放出して自爆する様子がご覧いただけます。
このような細胞死はパイロトーシス(Pyroptosis )と呼ばれるプログラム細胞死で、実際に脳内で起こっています。
Lilac01-EVを先に添加しておくと、大腸菌EVを添加してもこの細胞死は起こらず、Lilac01-EVが炎症の開始を強力に抑制することがわかりました。
乳酸菌EVはヒトのエクソソームと何が違うのですか?
エクソソームはヒトのEVのひとつで、若返り美容などに既に使われ始めています。ヒトのエクソソームは幹細胞由来の成分を運んだり、老化物質などを運んで他の細胞に処理してもらったりすることによって、全身の健康を維持しています。
腸内細菌が出すEVは血液脳関門を越えて脳まで届きます。腸から脳に届く情報には良い情報も悪い情報も含まれます。この作用はいわゆる腸脳相関と呼ばれてます。

病気の細胞もEVを出しますか?

EVは全ての細胞が出すので、病気の細胞もEVを出します。がん細胞はEVを出して転移先の地ならしをすることが知られています。1滴の血液からがんの種類と部位を調べる検査が実用化されようとしています。
また老化した細胞からは炎症物質が運ばれて、炎症が拡散する原因になります。
腸内細菌や歯周病菌のEVはどんな影響がありますか?
細菌にはグラム陽性菌とグラム陰性菌があり、グラム陰性菌にはLPSという毒素(エンドトキシン)がついています。グラム陰性菌が出すEVにもLPSがついており、LPS付のEVは単独のLPSよりも毒性が高いことがわかっています。LPSはマクロファージやミクログリアの自爆死を誘導して炎症をおこします。
前述の大腸菌はグラム陰性菌でLPSを持っており、大腸菌EVにもLPSがついています。脳内のミクログリアは、このLPSなどを感知して自爆死をおこしています。
抗生物質や抗菌剤は、グラム陰性菌よりもグラム陽性菌に強く作用することがわかっており、これらの薬剤は腸内細菌のバランスを崩して、体内のLPS量を増加させると考えられています。

老化した細胞のEVは体に悪くないのですか。
最新の研究でこの話題が注目されています。体の中には様々なEVが流れています。老化細胞からは老化物質を含むEVが放出され、他の細胞のリソソーム(ゴミ処理工場)で処理されます。しかし処理能力が追いつかなくなると、あふれたゴミが慢性炎症の原因になります。慢性炎症はアレルギーや自己免疫疾患の原因になるほか、脳内にも侵入して認知症などの神経変性疾患の原因になります。

乳酸菌EVは食べても安全ですか?
食経験があって安全な乳酸菌が出すEVは、安全だといえます。発酵食品の中にはEVも含まれていて、私たちはすでにこれらのEVを摂取しています。発酵食品の健康効果にはEVの効果が含まれていると考えられます。

乳酸菌EVがあまり知られていないのはなぜですか?
EVは非常に小さな粒で、これまでの分析技術ではその存在がわからなかったのです。2012年に国際細胞外小胞学会が設立されて、分析方法などが決められました。それからまだ10年ほどですが、各国で精力的に研究が進められています。

EVの研究はエクソソームを中心に行われています。間葉系幹細胞(MSC)が出すエクソソームは、MSC細胞の移植と同じ効果が得られることから、細胞なしのMSCエクソソームが注目されています。
乳酸菌などの細菌でもEVを放出することは知られていましたが、病原菌や一部の乳酸菌EVの研究が行われる程度で、あまり注目されていませんでした。
これまでは分析技術がまだ十分に整っていなかったので、少量のEVを分析することが困難でしたが、研究の環境も徐々に整ってきており、今後はさまざまなEVが注目される可能性があります。
乳酸菌EVはなぜ革新的なのですか?
エクソソームは炎症を抑え、創傷治癒効果があるために、神経疾患の改善や老化した肌の再生(アンチエイジング)効果などが確認されています。またこれまで不可能だった様々な難治性疾患の改善など、医療の革新的な進歩が期待されています。しかしエクソソームには病気の細胞や老化細胞などの情報も含まれるため、安全な製剤をいかに生産するかが課題とされています。
乳酸菌EVはすでに食経験があり、エクソソームのようなリスクがありません。また乳酸菌培養技術をそのまま活用することができるため、大量生産が可能で品質の良い製品を安定供給することができます。
Lilac01-EVの特徴は何ですか?
ライラック乳酸菌は他の細菌と比較して10倍以上のEVを放出することがわかってきました。次の右の写真は棒状のライラック乳酸菌の表面からEVが噴出している様子です。培養液中に1011~1012個/mLのEVを放出します。
大量のEVを放出するため分析も可能となりました。分析の結果、Lilac01-EVの膜成分は「カルジオリピン(CL)」であることがわかりました。CLは動物ではミトコンドリアだけに存在するリン脂質で、ミトコンドリアがエネルギーをつくるために重要な役割を果たします。


Lilac01-EVはミトコンドリアにどのように作用しますか?
ヒトの皮膚の下にある線維芽細胞(老化細胞)にLilac01-EVを添加すると、細胞内のミトコンドリアの量が約2倍に増加し、細胞数も約2倍に増加しました。
このような効果は、乳酸菌EVが線維芽細胞の活動を高めて、皮膚の再生や創傷治癒に効果を示す理由と考えられます。
またミトコンドリアは細胞の死を決定する細胞内小器官でもあり、ミクログリアの細胞死もミトコンドリアを増やすことで防止できると推定されます。
Lilac01-EVはミトコンドリアの量を増加させることによって、抗炎症効果と創傷治癒効果を高めることが確認されました。
ミトコンドリアは、外の細菌を取り込んで酸素を使ってエネルギーをつくるように進化したものです。
カルジオリピン(CL)というリン脂質は動物の細胞ではミトコンドリアにしか存在せず、脳や心臓などエネルギーをたくさん必要とする部位に多く存在します。CLは細菌にもありますが、lilac01-EVはCLの割合が飛びぬけて多いという特徴があります。
CLの減少はミトコンドリア活性が下がり、さまざまな障害をおこします。私たちの研究では、ミトコンドリア含量を高めることによって、炎症の抑制、痛みや痒みの軽減、細胞の若返り効果などが期待できます。

乳酸菌EVにはどのようなことが期待できますか?
私たち生物は単独で生きているわけではなく、他の生物とともに同じ空間で生きています。いろいろな生物がメッセージのやり取りをして一定の関係を保っています。そのメッセージの重要な一つがEVなのです。
人類は自然の中で進化してきましたが、現代の私たちは過剰に清潔な生活をしています。細菌などの他の生物を排除してきた結果、アレルギーや自己免疫疾患などの免疫システムの異常につながっていると考えられています。
私たちの体の中ではさまざまなEVが働いていますが、それらは外の世界と交流を持つことで、正常に働き、健康を保つことができるのです。
乳酸菌EVはこのような生物が本来持っているシステムを正常化することができます。まさに「生きる力」を私たちに与えてくれます。
乳酸菌EVを摂取することによって、これまで原因がわからなかった問題の解決につながるかもしれません。アレルギーや自己免疫疾患、さらには多くの難病といわれる病気への新しいアプローチも可能になります。